悩める薬剤師ADHDだし、薬剤師の仕事向いていないかも……
またミスして怒られてしまった。どうしたらいいの?
そんなふうに悩んでいないでしょうか?
私はこれまでに発達障害のある薬剤師と一緒に働いてきました。
注意が散ってしまう特性のせいで、人よりミスが多くなり、怒られて自信をなくしてしまう姿をたくさん見てきました。
そして、私自身も軽いADHDであり、マルチタスクが降りかかると途端にパニックになります。
(特に空気が張り詰めている現場では……!)
この記事では、ADHDの特性を理解しながら、薬剤師として無理なく働くための具体的なステップをわかりやすくお伝えします。
- 精神科薬剤師として5年勤務
- うつ病・発達障害など、精神疾患を抱える多くの患者さんの服薬支援を経験
- 2児の母として、働き方や仕事の負荷にも常に向き合ってきた薬剤師



発達特性を理解しつつ、あなたが安心して働ける職場を見つけるためのヒントをまとめます。
なぜADHD薬剤師は「辞めたい」と感じやすいのか
まず前提として、ADHDではない薬剤師でも「辞めたい…」と思う場面は多いです。
薬局は常に慌ただしく、ミスが許されない仕事であり、誰にとってもストレスの大きい職場です。
つまり、「ADHDだから辞めたいと感じているのか?」と自分を責める必要は全くありません。
ただし、ADHDの特性上、「合う業務・合わない業務」が普通の人よりハッキリ出やすい のも事実です。
そのため、“辞めたい”という感情がより早く、強く出ることがあります。
調剤・監査などのマルチタスクが多すぎる
特に病院前・クリニック前の薬局は、受診時間に患者さんが集中し、とにかく忙しいです。
そして、忙しさに比例して、薬剤師の仕事は「同時に複数タスクをこなす力」を求められます。
- 調剤
- 監査
- 投薬(服薬指導)
- 電話対応
- 在庫の問い合わせ
- 突発的な疑義紹介
- 処方箋のエラーへの対応
これらが “一気に” 降りかかることも珍しくありません。
しかも、薬局内では「誰がどの役割を担当するか」が固定されていない ことが多く、状況に応じて役割を切り替えていく必要があります。



忙しいなかで、私は何をしたらいいの?!とパニックになりますよね。
最近は薬剤師の負担がさらに増えています
さらに以前に比べて、最近は薬剤師の負担もどんどん増えてきています。
- 取り扱う薬の種類が多すぎる
- 先発品/後発品、剤形違い、メーカー違いなど判断が複雑
- 鑑査でバーコード通過が必須になるなど、機械操作も増加
- 処方箋のわずかな記載ミスでも疑義紹介が必要
- ミスが許されない雰囲気(これは以前からありますが……最近より厳しく見られている気がします。)
これらはすべて、ワーキングメモリ(作業記憶)に不安があるADHDの人にとって大きな負荷になります。
ADHDの人は“一気に来るタスク”が特に苦手
マルチタスク状態になると、
- 頭の中でタスクを整理できない
- どれを優先すべきかわからなくなる
- 焦って余計ミスが増える
- ミスを指摘されて自信を失う
この悪循環に陥りやすいです。
すると、「仕事がうまくできない自分」に落ち込み、
「向いてない…辞めたい…」という気持ちが強まっていきます。
こうしてみると、薬局の忙しさとADHD特性の相性が悪いのは、ある意味、当たり前です。
では、辞める前にまず何を整理すれば良いのでしょうか?
まずは「つらさの正体」を可視化する(仕事と自分の棚卸し)
辞めたいと思って勢いで辞めてしまうと、次の職場でも同じ失敗を繰り返す可能性があります。
場合によっては、今よりもさらに相性の悪い環境に転職してしまうリスクも。
まずは、「自分の特性」と「今の職場環境」のどこが噛み合っていないのかを整理してみましょう。
ADHDの症状と職場環境の相性をチェックする
まずは、あなたの職場がADHDと相性が良いのか・悪いのかを確認します。
ADHDの特性が薬局業務で強く出てしまう理由として、以下の項目が当てはまりやすい人は多いです。
| ADHDの特徴 | 具体的なトラブル例 |
|---|---|
| 不注意(注意が散りやすい) | 調剤中に割り込みがあると流れが飛ぶ 処方箋の読み落としが起きやすい “どこまで調剤したか”忘れやすい |
| マルチタスクが苦手 | 同時に複数タスクを振られるとパニック 優先順位がつけられず動きが止まる タスク切り替えに時間がかかる |
| ミスしやすいポイントが明確 | 先発後発・剤形違いの取り違い 数量ミス、一包化のカウントミス 後発品のメーカー違いに混乱 |
| 突発対応に弱い | 電話・問い合わせで集中がリセットされる 投薬中の横やりで混乱する クレーム対応で気持ちが大きく揺さぶられる |
| 情報量が多いと処理しきれない | 膨大な薬の種類に圧倒される 新薬・メーカー違いの特徴が覚えにくい 棚の配置や変更に対応しづらい |
| 情緒の揺れが仕事に影響しやすい | 指摘されると自信喪失しやすい ミスを恐れてさらにミスが増える悪循環 職場の緊張感でパフォーマンスが下がる |
| 興味の偏り | 調剤が苦手だと、症例や勉強だけ過集中する DIや情報収集だけ異常に得意なタイプも |



では、今の職場の環境はどうでしょうか?
次の項目に 3つ以上当てはまる場合は、ADHDと相性の悪い職場である可能性が高いです。
- 調剤中に話しかけられたり、他の業務を振られたりする
- ひとつのことに集中できず、一度に複数の業務を進行しないといけない
- 薬の種類や剤形が多く、調剤量も多い
- 電話での問い合わせ業務が多い
- 人間関係がギクシャクしていて、ミスに対する叱責が強い
- 職場の業務に興味が持てない/苦手意識がある
該当が多いほど、「辞めたい」と感じるのは特性の問題というより“環境とのミスマッチ”です。
この場合、職場を変えても後悔する可能性は低く、特性にあった職場選びを頑張る方が人生が豊かになるでしょう。
自分の仕事の得意・苦手を見える化する
次に、自分がどの業務が好きで、どの業務が苦手かを書き出してみましょう。
以下は一例として、私自身の特性です。
| ADHDにとって得意なこと | ADHDにとって苦手なこと |
|---|---|
| 患者さんとの会話・相談(コミュニケーション) リサーチ・情報収集(DI的作業) 単純作業やルーティン仕事(ピッキングのみ、一包化のみ) 患者教育(指導内容が明確な場面は得意) | マルチタスク(調剤→監査→投薬の切り替え) 突発対応(電話・問い合わせ・クレーム) 複雑な判断が必要な業務(在庫のない薬剤の調達など) 細かいチェック作業(監査) |
私の場合、特に同じ薬でもメーカー違い・剤形違いが入り乱れている薬局で働くことはとても苦痛でした。
また、門前の診療科が多い薬局では、薬の種類が爆発的に増えるため、覚えることも判断も多くパニックになりがちでした。



そのため私は、精神科処方が99%の薬局に転職しました。
扱う薬剤の種類が比較的限定されているため、判断負荷が減り、ミスの不安もかなり軽減しました。
今思えば、在宅メインの薬局も自分には向いていたと思います。
(患者数が少なく、集中して対応できるため。)
辞める前に現職場で調整できないか確認する
仕事を辞めるのは簡単ですが、次の職場に慣れるには想像以上のエネルギーが必要です。
辞める前に、
「今の職場で、少しでも働きやすくなる方法がないか」
一度だけでいいので調整してみましょう。
もちろん、職場改善ができない場合は辞める選択肢も全然アリです。
ここでは、ADHDの人が実際にやって効果の出やすい調整法を紹介します。
業務の分担を見直してもらう
自分の得意・苦手が把握できたら、役割分担を調整できないか上司に相談してみましょう。
たとえば:
- 鑑査が苦手 → 調剤・投薬中心の役割にしてもらう
- 電話対応や突発業務が苦手 → 他のスタッフに多めに振ってもらう
- マルチタスクが苦手 → 作業中に別業務を急に振られないよう配慮を依頼する
ポイントは、
「できない」ではなく「こうしてもらえるとミスが減る・仕事が早くなる」
という“改善提案”として伝えること。
ただし、どの薬局も人数的に余裕があるわけではありません。
困難な場合もあり、要求しすぎると「わがまま」「空気が読めない」とレッテルを貼られる可能性もあります。



相談は一度だけでOK。食い下がらないことが大切です。
業務の優先順位を視覚化する工夫
ADHDの人は、複数タスクが同時に来ると優先順位がわからなくなることが多いです。
だからこそ、優先順位を「見える化」するのが最強の対策です。
私の場合は、以下のルールを作っています。
- 投薬できる処方があれば、まず投薬へ
- 調剤と鑑査の状況を見て、詰まっている方を優先
- 優先順位がわからなくなったら管理薬剤師に確認
これを決めておくだけで、パニックが格段に減りました。
もし管理薬剤師に相談しやすい場合は、「この優先順位で進めていいですか?」と一度確認しておくと、より安心して動けます。
声かけ・割り込み対策を準備しておく
薬局は、
- 突発の電話
- 他スタッフからの相談
- 投薬の声かけ
など、割り込みが避けられない職場です。
ADHDにとって割り込みは集中がリセットされるので、パニックの原因にもなります。
そこで私が実践しているのはこれ:
| 対応策 | 実際の対応例 | 効果 |
|---|---|---|
| 返答をテンプレ化する | 「今の作業が終わったら対応します!」「5分後に戻ります!」とあとですることを伝える | マルチタスクの防止 |
| メモで“次やること”を可視化する | 「次:○○をする」とメモ | やるべきことを明文化 |



これは特に、ワーキングメモリが小さいタイプのADHDに効果絶大です。
どうしてもつらい場合の「働き方の選択肢」
上記の対策をしても、どうしても働きづらい・職場に行くのがつらいと感じるのであれば、本格的に転職を考えるべきタイミングです。



ここでは、ADHDの人に比較的相性の良い働き方を紹介します。
在宅・施設メイン薬局
今までのキャリアを活かしつつ薬剤師を続けたい場合、在宅や施設メインの薬局は特におすすめです。
- 来る処方の種類がある程度予測できる
- 突発対応が少ない
- 基本的に“ルーティン化”された業務が多い
業務に入る前に次のことを最初に伝えておくと、働き始めてからもスムーズです。
- 苦手業務
- 分担してほしいこと
また、在宅特化の薬局は一般の調剤薬局ほど忙しくないため、在籍スタッフも穏やかなタイプが多い傾向があります。
さらに、在宅分野は今後も需要が伸び続けるため、長期的に仕事がなくなるリスクが低いというのもメリットです。
企業で薬剤師の資格・経験を活かす(DI、PV、薬事)
もしあなたが
- 投薬が苦手
- 患者さんと話すのが負担
と感じている場合は、薬局以外で働く選択肢を考えてよいでしょう。
DI業務
→ 医療関係者や患者さんからの質問に答える仕事
→ 調べて→回答して→記録する、の繰り返しで“予測不能な割り込み”が少ない
→ 在宅勤務できる企業もある
PV(安全性管理)
→ 副作用情報の収集・報告
→ 文章作成やデータ処理が中心
→ 海外の症例を扱うため英語力が活かせる
→ 覚えるまでは大変だが、一度軌道に乗ればフルリモートの選択肢もあり
どれも薬局より転職のハードルは高いですが、PC作業中心で、薬剤師ほどのマルチタスク・突発対応が少ないため、ADHDの特性に合いやすい仕事です。
少人数薬局より大規模薬局が向くケースもある
経験を活かして調剤薬局で働きたい場合、大規模薬局を検討するのも一つの手です。
例:
- 1日の処方箋100枚以上
- 薬剤師10人前後
一見すると
「忙しそうで無理!」
と思うかもしれませんが、実はメリットもあります。
- 役割分担が明確になりやすい
- 苦手業務を外してもらえる可能性がある
- 人数が多い分、フォローを受けやすい
- 特定の業務に集中しやすい
転職時に
「得意なのは〇〇、苦手なのは〇〇で、避けたい」
と伝えるだけで受け入れてくれる薬局もあります。
もし今の職場が薬剤師2〜3人しかいない環境なら、大規模薬局のほうがむしろ働きやすいケースも多いです。
派遣・パートでの負荷調整
心が限界に近く、「もう働くこと自体がしんどい」という場合は、一時的に負荷を下げる働き方も選択肢に入れてください。
ADHDの人は、知らないうちにストレスを溜め込み、
- 朝起きられない
- 涙が止まらない
といった状態になり、うつ病や適応障害につながることが珍しくありません。



これは甘えや弱さではなく、特性ゆえの二次障害です。
キャリアダウンはネガティブに聞こえますが、「心の調子が戻るまでの一定期間だけ」と思えばハードルは下がります。
薬剤師は幸い、パートや派遣でも時給が高く、午前勤務だけで月10〜15万円は現実的です。
うつや適応障害を発症してしまうと回復に時間がかかります。
そうなる前に、自分を守る働き方を選んでください。
辞めると決めた場合のステップ
辞めると決めた時は、次の3ステップだけ意識すればOKです。
① 退職のタイミングを決める
繁忙期を避けたり、引き継ぎがしやすい時期を選ぶとスムーズです。
無理に長く居続ける必要はありません。
② 次の職場で「避けたい業務」「得意な業務」を明確にする
この記事で棚卸しした内容を、そのまま転職軸に使えばOKです。
“どんな業務なら続けられるか?”を先に決めておくとミスマッチを避けられます。
③ 転職先は“ADHDと相性の良い働き方”の中から選ぶ
在宅メイン薬局、企業(DI・PV)、大規模薬局、派遣・パートなど、
自分の特性に合う職場を最初から絞っていくのがポイントです。
辞める=逃げではありません。
「自分に合う働き方」を選ぶための大切なステップです。
※ 詳しい“失敗しない転職ステップ”は、後日別記事でまとめます。
まとめ:辞めたいと思ったら“立ち止まって整理する”で未来が変わる
薬局の仕事は、ADHDの特性と相性の悪い場面が多いため、「辞めたい」「向いてない」と感じるのは決して珍しいことではありません。
大切なのは、勢いで辞めるのではなく、まずは“自分と仕事の棚卸し”をすること。
- どんな場面がつらいのか
- 苦手はどんな特性から来ているのか
- 職場の環境と自分は合っているのか
- 調整できることはあるのか
これを一度整理するだけで、今の職場で働きやすくなるケースもあれば、転職すべき理由が明確になるケースもあります。
そして、働く場所を変えれば、ADHDの特性は“弱み”ではなく“強み”として活かせることもたくさんあります。



あなたのキャリアは、まだまだ伸ばせます。
そして、あなたに合う働き方は必ずあります。









